コラム(イタリア通信)ビアンケット
当社オリジナルでイタリアからのコラムをお届けいたします。
名ワインと同郷の白トリュフ!珍重される春生まれの白トリュフとは?
秋、イタリア各地を旅行すると、かなりの頻度で「トリュフ、あります」というセリフをレストランで耳にします。レストランに入った途端にその芳香に幻惑され、値段も聞かずに注文するという現象が各地で発生するのです。しかし登場するトリュフはほとんどが黒いタイプ。白トリュフは本場のイタリアでも高価で貴重、なかなか口に入らない食材のひとつです。
トリュフといえばフランス料理のイメージがありますが、イタリア半島では古代から食していた歴史があるのをご存じでしょうか。
今日は白トリュフにまつわるさまざまエピソードをご紹介したいと思います。
春の白トリュフは希少&貴重 その理由は?
トリュフといえば秋の味覚というイメージがあります。実際、通常の白トリュフであれば9月の終わりから冬にかけて採取されます。しかしトリュフの種類は非常に多く、稀ではありますが春に採取できるタイプもあります。
ビアンケット(Bianchetto)とかマルツォーロ(Marzuolo)と呼ばれるのがそれで、採取時期は1月の終わりから3月ごろまで。採取できる期間も決して長くはありません。
春の白トリュフは、より凝縮感のある香り、春に採取されるにふさわしいフレッシュ感がその特徴とされています。その美味しさは、「丹念に熟成された高級チーズとよく似た旨味」と評されることもあり。わずかな辛味があるのも魅力のひとつです。
春に採取できる白トリュフの量はとても少ないため、高級食材とされているトリュフのなかでも最高峰の貴重品。
食通の間でもなかなか食べることができない、というのが現状なのです。
古代人も愛したトリュフ、珍重される理由とは?
ところで、トリュフはいつ頃から食べられていたのでしょうか。
トリュフに関する著述が最初に登場するのはなんと1世紀のこと。
古代ローマ時代の有名な博物学者、プリニウスによってその存在が文献に残されています。また詩人のユウェナリスは、トリュフの起源はギリシアの最高神ゼウスが樫の木の根元に落とした雷にあるともうたっているのです。
爾来(じらい)ほぼ2000年。
21世紀の現在もトリュフが珍重されている理由は、栽培が不可能という事情に因ります。近年、黒トリュフに関しては栽培を試みているというニュースが伝えられましたが、実際に出回って入りトリュフは、犬と人間がコンビになって森で採取するという、原始的な手法によるものばかりなのです。
白トリュフの産地は限定的
黒トリュフはイタリア半島の各地で採取され、庶民でもちょっと無理をすれば手が届くところにある存在です。
いっぽう白トリュフは、名ワインを生み出すピエモンテ州の一部が産地であり、他の地域ではごくごくわずかな量しか見つけることができません。
白トリュフの主な産地は、ランゲ、モンフェッラート、ロエーロなどが有名ですが、「白トリュフの首都」の異名を持つのがアルバです。アルバでは、1929年から「トリュフ市( Fiera del Tartufo)」も開催されているほど、国際的にも白トリュフの町として知られています。
この地方には、父親から息子へと白トリュフ採取の秘伝を伝える家があり、トリュフの匂いをかぎ分けるセンスを持つ犬とともに森へと入り、白トリュフ狩りをするのです。
ちなみに、イタリアではトリュフの採取は免許制。各州で適正試験を受け、合格した人しか採取が許されていません。
アルバ地方に残る言い伝えでは、雨が降った後の月夜の晩に採取する白トリュフはことのほか美味なのだとか。
いかにもイタリアらしい詩的な食材なのですね。
白と黒、その違いはなに?
ところで、採取量が少ないという理由以外に、白トリュフが世界中でもてはやされる理由はなんでしょうか。
これにも諸説あるのですが、よく耳にするのはこの説です。
「黒トリュフは香りがあるだけで、つまりパスタにするにも料理にするにも味付けが必要であるのに対し、白トリュフはより品格のある香りに加えて味付けの必要がないほどの風味に恵まれている」
実際、白トリュフの香りは黒のタイプに比べてより強い芳香があり、その味わいもより深いのですから、この説もまんざらハズレではないのかもしれません。
いずれにしても、白も黒もトリュフに関しては食するたびにその風味が異なります。種類や育った土壌だけではなく、その年の気候なども味わいに影響を与えているのかもしれません。
イタリアでは、秋になると各地で「サーグラ(Sagra)」と呼ばれる食のお祭りが開催されます。トリュフの名産地ではもちろんトリュフをテーマにしたお祭りが開かれるのですが、パスタやリゾットなど、供される料理に使われるのは黒トリュフのみ。
白トリュフはまるで宝石のような扱いでガラスケースに入れられ、人々の渇望の視線を受けています。一般庶民にはハードルが高すぎるその価格から、白トリュフを購入しようという人はほぼ皆無。
イタリア人にとっても夢の食材、それが白トリュフなのです。
白トリュフを実際に食べると
それでは、白トリュフはまったく手が届かないのかといえば、たまさかに食べる機会はあるのです。
それは、訪れたレストランに「本日、白トリュフあります」の看板が出たときです。
レストランで実際に白トリュフを食べる際には、まずシンプルなパスタが運ばれてきて、給仕が計りとともに白トリュフの一片を持ってきます。白トリュフをパスタの上に削る前に重さを計ったあと、専用のおろし器で白トリュフを削ります。そのあと再び重さをはかり、減った分の重さを時価で払うことになるのです。
黒トリュフと異なり、白トリュフは高名なレストランでも常備できないほど需要が限られています。そのため定番メニューには含まれず、入荷があった場合にだけ「本日のメニュー」に登場します。
一生の一度の贅沢で白トリュフのパスタを食べるというイタリア人も少なくなく、シンプルに一皿の価格を口頭で伝えてくれるレストランもあります。そのお値段ももちろん、決してお安くはないのですが。
とはいえ、通常の白トリュフ以上にお目にかかる機会が少ない春の白トリュフ、清水の舞台から飛び降りてでも食べる価値があります。
白トリュフと合うワインは?
独特の芳香を持つ白トリュフ、どんなワインと相性がよいのでしょうか。
白トリュフの名産地ピエモンテで栽培されるネッビオーロ種から作られるワインは、白トリュフとよく合うというのが通説になっています。
バローロ、ガッティナーラ、バルバレスコ、ゲンメなどがその代表格で、白トリュフの香り高さに負けない重厚さを持つワインがお似合い、といったところでしょうか。