プーリアの食文化①ボヴィーノと地元のレストラン

プーリアの食文化①ボヴィーノと地元のレストラン


 

 ボヴィーノという小さな村

 

近年、イタリア国内の『最も美しい村』(I borghi più bella d’Italia)に加盟し、テレビ番組などで紹介されたプーリア州の小さな村、ボヴィーノ。

人口は、約3000人。

フォッジャ市から、約30キロ離れた、標高約620メートルの丘にある村です。

空気はカラッとしていて、南イタリアらしい気候ですが、山頂なので、昼夜の気温差が激しく、風の多い地域です。

 城からボヴィーノを見下ろした風景


ボヴィーノの歴史は古く、紀元前のローマ時代には、村の存在が確認されていたそうです。

村には、ローマ時代の遺跡や、ビザンチン様式の建築物なども確認されており、長い間、歴史的建造物が何層にも重なりあって、現在の村が造り上げられてきた様子が伺えます。

 

ボヴィーノの城。


村の頂上にある城からは、村全体と、郊外のパノラマが見渡せます。

城は、ノルマン人が、この地を支配していた1045年に、ローマ時代の砦の上に建設されたそうです。

1575年から1961年までは、この地を治めた公爵と、その子孫が住んでいました。

 

城から下降する階段は、村の中心部の大聖堂につながります。

大聖堂前には広場があって、その広場を囲む様に、住居が密集しています。

 

石畳の細い路地と、階段が張り巡った村は、まるで迷路の様。

路地を歩いていると、爽やかな風に乗って、洗濯物と漂白剤の香りや、家庭料理の匂いが漂います。

この匂いがすると、『ああ、プーリア州に来たなあ』と思うのです。

 階段の多い村の中心部。


 プーリアの主婦は働きもの


家事においては完璧で、料理の腕もアイロンがけも、プロ級です。

家はピカピカ。

村の路地にも、ゴミ一つ落ちていません。

そんなプロフェッショナルな主婦は、家族の皆から『マンマ(お母さん)』と『マンマノンナ(現役ママに負けないくらい影響力のあるおばあちゃん)』と呼ばれ、頼りにされています。

プーリアの女性は、育児に対しても非常に情熱的。

『子供は地元の人みんなで育てるもの』という考え方なので、母性愛に溢れています。

そんな環境で育った子供たちは、人懐っこく、伸び伸びしています。

村には、そんな子供たちの元気で明るい声が響きます。

 

ボヴィーノからのパノラマ。清々しい風が吹きます。

 

中心部を通り抜け、村を囲む城壁にたどり着くと、パノラマが広がります。

空気が澄んでいれば、フォッジャや、アドリア海の方まで見渡せます。


    夏のヴァカンスシーズンのボヴィーノ

  

ボヴィーノは、伝統的な食文化を誇り、こんなに歴史的建造物が多い村なのに、観光業が全くないという、不思議な村。

アクセスもしにくい場所ですが、私は、ボヴィーノにルーツを持つ夫に同伴して、15年前から、度々この村を訪れています。

村を歩いていると、自分の容姿が目立ってしまうのか、常に地元の人に見られている気配がします。

ボヴィーノの中心部の路地。


『あなたは、どちらの家系に属するのかしら・・・。』

 

地元のお年寄りの中には、見ず知らずの私に、方言で、こんな質問を投げかける人もいます。

この場合、この村に住む夫の親戚の苗字を伝えると、安心し、納得した様子で、親しみを込めた笑顔で挨拶をしてくれるのです。

 

この村の若者のほとんどは、大学進学や就職を機に、村を離れます。

その結果、古い住居が密集する村の中心には、高齢者が取り残され、廃墟になった住居も年々増加しています。


丘の上に造られた村には、急な坂道や階段が多く、雨や雪の日の歩行は危険。

店は、パン屋やバールがそれぞれ一軒あるくらいで、スーパーマーケットもありません。

車が入らない細い路地もたくさんあるし、路上駐車ができる場所も限られています。

時代の流れと共に、村の人々は、次々と郊外の新しいアパートに住まいを移し、高齢者は、村の外れの老人ホームへ移りはじめました。

 

ボヴィーノの中心部に向かうメインストリート。8月29日から始まる『カヴァルカータ』というお祭りの様子。

 

少子高齢化が進むボヴィーノですが、夏のヴァカンスシーズンには、村が活気を取り戻し、静まりかえっていた路地に、人が溢れます。

この時期に、にぎやかな村の中心部を歩くと、地元の方言に混じって、たまに英語やフランス語が飛び交うという、不思議な現象がおきます。


この村にルーツを持つ人とその家族が、イタリア各地からだけでなく、アメリカや、カナダ、フランスからやってくるのです。

海外からボヴィーノに訪れる人々のほとんどが、19世紀の末から20世紀にかけて、この村から移民として外国へ旅立った人々や、その子孫たち。

きっと遠い異国の地でも、同郷のコミュニティーを心の支えにして、生きてきたのでしょう。

村の至る所で、何度も握手やハグを交わす人々を見ていると、そんな人々の深い郷土愛を感じます。

 

ボヴィーノの大聖堂。

 

    ボヴィーノの郷土料理を味わえるレストラン

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 深い郷土愛を持つプーリア州の人々は、食へのこだわりも一層強く、地元の食文化に愛着を持っています。

ボヴィーノの様な小さな村でも、各家庭に秘伝のレシピが代々引き継がれていて、どの家庭にとっても『マンマの味』は、世界一なのです。

作り立てのモッツアレッラ、ヒョウタンの様な形をしたカチョカヴァッロなどのチーズも、地元のものに限ります。

また、自家製のオリーブオイル、ワイン、トマトソースなどが、食卓に登場する家庭も少なくありません。

 

そんなプーリア州には、手ごろな値段で、美味しいレストランがたくさん。

ボヴィーノでは、『ラ・カンティーナ』(La Cantinaというレストランで、地元の郷土料理を味わうことができます。

https://www.facebook.com/lacantinabovino

https://www.instagram.com/cantinaristorante/

(画像はFACEBOOKから)


レストランは、大聖堂広場のすぐ近く。

大聖堂を背にして、左側の細い路地に入ると、すぐ『ラ・カンティーナ』のお店が見えます。

入り口から、階段を数段降りると、昔の住居の居間をそのまま利用した店内が伺えます。

石造りの壁、大きな暖炉。

一部ガラス張りになっている床からは、地下の食料貯蔵庫に続く梯子があり、床下に保存されているワインや、カチョカヴァッロが見えます。

店内はこじんまりしているので、来店客が多い夏のシーズンには、店外の路地にも、いくつかテーブルを出しています。

レストラン、『ラ・カンティーナ』の入り口。

 

一般的に、プーリア州のレストランは、アンティパストが豊富。

このレストランでも、お任せすると、10種類以上のアンティパストを持ってきてくれます。

 

アンティパストのエスカルゴ。

 

オリーブや、サルミ、プロシュット。

リコッタ、カチョカヴァッロ、モッツアレッラ、ペコリーノなどのチーズ。

ペペロンチーノや、胡椒が入ったチーズも、甘いモスタルダを付け合わせで出てきます。

夏には、普段なかなか食べる機会がないエスカルゴも。

季節に応じて、様々な野菜を使った料理も、小さいお皿に盛られます。

テーブルには、表面が硬く、中が柔らかいプーリア産のパンと、自家製オリーブオイルが欠かせません。

パンにも手を伸ばしているうちに、前菜だけでお腹がいっぱい。

豊富なアンティパストと、自家製のワインもいただいて、お勘定は、二人で35€。

十分家庭料理を楽しませてもらいました。

 

  

自家製ワインと、アンティパスト。

 

    深夜のスパゲッティー『スパゲッタータ・ディ・メッツアノッテ』

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 このレストランでは、夏に『スパゲッタータ・ディ・メッツアノッテ』と名付けられた一品を販売します。

なんと、深夜、閉店間際に、テーブルに座って、トマトソースのシンプルなスパゲティーを食べることができるのです。

北イタリアでは、22時頃からラストオーダーが始まって、22時半からお客様の来店を断り始めるレストランがほとんど。

それに比べて、プーリア州のレストランは、とっても寛大。

南では、時間がゆっくり流れている様です。

 

深夜0時ちょっと前に、『La Cantina』に入店。扉には、『スパゲッタータ・ディ・メッツアノッテ』の宣伝。 

 

『深夜のスパゲッティー』をオーダーすると、店長が、素早く大きな片手鍋に入った二人分のスパゲッティーを持ってきてくれます。

飲食店の従業員が食べる『まかない』みたいですね。

この『深夜のスパゲッティー』、材料はシンプルですが、『どうやったらこんなに美味しいトマトソースができるのだろう』と、不思議になるくらい美味しいのです。

『深夜のスパゲッティー』は、一人分、たったの2€。

ワインもいただいて、値段は、二人分で8€でした。

  

路地に広がるテーブルで、スパゲッティー・ディ・メッツアノッテを注文。

 

次回は、このボヴィーノから、一般住居の地下にある、歴史的な食料貯蔵庫をご紹介します。