イタリア・ジェラテリア・勤務誌③(イタリアで働くという事)

イタリアのジェラート 店より③(イタリアで働くという事)


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  2. 第2話はこちら

 

これまで、店内より、商品の作り方や、オススメのフレーバーをご紹介してきました。

今回は、10年間現地で働き、経験したことや、感じた事、学んだことなどをお伝えしたいと思います。

 

§  目次

 

1.    イタリアの生活

2.    小さな都市で働くということ

3.    職場のイタリア人

4.    イタリアの労働条件

5.    イタリアと日本の関係

 

1.     イタリアの生活

 

イタリアは、どの街にも美しい歴史的建造物が溢れており、一流の食文化や芸術文化に触れることができる国。

50を超える世界遺産が健在しているイタリアは、数々の人気スポットを誇り、世界の人々を魅了しています。

しかし、実際に生活をしてみると、大変不便な国なのです。

 

若年層の失業率が30%以上という就職難。

経済不況と、少子化の問題。

移民の問題、コロナ危機、ウクライナ問題の影響など、イタリアの社会は、様々な課題を抱えています。

 

日常生活では、ついイライラしてしまうことが、しょっちゅうあります。

『おもてなし』というサービス精神の高い日本とは真逆のイタリア。

滞在許可書の申請や更新に訪れる警察署をはじめ、郵便局、電車の乗務員、スーパーの店員などに、粗雑な対応をされることが多々あります。

しかし、あまり気にしていると、精神的に疲れてしまい、現地で生活はできません。

 

楽観的に見えるイタリア人も、不便な社会で、うまくストレスと向き合って生活しています。

例えば、郵便局や銀行、スーパーマーケットでの長蛇の列や、公共交通機関の乱れた運行に対しても、怒りをあらわにする人はいません

溜め息をつきながらも、すぐに気持ちを切り替え、居合わせた人とおしゃべりをして、冗談までいいながら気を紛らわす人までいます。


そんなイタリア人を観察すると、自力でどうにもならない状況には、敢えて向き合わず、マイペースで生きることを心がけているように見えるのです。

 


 

2.     小さな都市で働くということ

 

私が住むパルマ市は、美食の街、ヴェルディ・オペラフェスティバルの地として有名。

世界中から観光客が訪れる都市ですが、生活してみると、実に閉鎖的です。


ローマやミラノなど、あらゆる人種が生活している主要都市とは違い、外国人の住民も少なく、ローカルカラーが色濃い都市


パルマのように小さい都市の住民は、中世から築き上げてきた地方独自の食文化や芸術文化に誇りを持ち、同郷の結束が堅いのです。

そんな都市で、東洋人が生活をするのは、容易なことではありません。

 

私の場合は、パルマ大学に通う友人の紹介で、イタリア人学生3人と共同生活をすることになり、ご縁があってオープンしたてのジェラート店に務めることになりました。

 

私がジェラート店に立つようになった当初は、この就職難の時代に働く東洋人を、よく思ってない人も少なくありませんでした。

来店客の中には、感じのいい常連客もいましたが、気難しい人も多い印象を受けました。


2009年から10年間もその店に勤めた理由は、自分を採用してくれた店長が同年代の男性で、この街で日本人を高評価する数少ないイタリア人だったからでした。


そのお陰で、同僚とも気持ちよく仕事ができたし、職場を通して、徐々に地元の人々の信頼を得ることができたように思います。


 

3.     職場のイタリア人

 

イタリア人は一般的に、陽気で楽観的、フレンドリー、ルーズな人が多いですが、自分を採用した店長の性格は、真逆。

超几帳面で、完璧主義。仕事に厳しく、とにかく働き者。

 

一方、店長の持つ日本人のイメージは、勤勉で、我慢強く、礼儀正しく、几帳面。

職場では、日本人に大きな期待を寄せていました。

それは、初めて外国で就職した私にとって、大きなプレッシャーでした。


当初は辛かったけど、振り返ってみれば、プレッシャーを感じたからこそ、早く仕事を覚え、語学力も上級レベルまで向上できたのだと思います。

また、日本を俯瞰し、日本人の自分がどう社会に貢献できるのか、考えながら仕事に向き合う習慣ができました。

 

20年間、現地で様々なタイプのイタリア人に接してきましたが、この店長のように、度を越えて几帳面で完璧主義なイタリア人って、意外に多いのです。


しかし、よく考えてみれば、この国で郷土色豊かな食文化や、芸術文化、また伝統技術が伝授され、洗練されてきたのは、そんなイタリア人の性質があってこそだと思うのです。


職人の世界では、今でも師弟関係のもと、マニュアルだけでは伝えきれない繊細な感性を織り込んだ伝統技術が、引き継がれています。


イタリアが発信するスローフードの社会運動に表れているように、大量生産より、少量でも良質の物を生産するという選択も、こだわりの強いイタリア人の職人気質から生まれたのでしょう。

 

 

4.     イタリアの労働条件

 

私が勤めたジェラート店には、フルタイム正社員が2人と、パートタイム正社員が2、3人。

忙しいシーズンに短期契約で勤務する社員が、5人ほどいます。

外国人で、学生用の滞在許可証を所持している場合は、週に20時間まで。

仕事用や家族用の滞在許可証があれば、フルタイムが許可されます。

 

開店は、正午12時。深夜0時に閉店。

従業員の仕事は、品出しや製造業務で、朝の7時半から始まる日もあり、深夜0時半から1時に終了するので、副業や学業を両立することも可能です。

 

月給は、パートタイムで約800€。

フルタイムは、能力に応じて、1300€から1800€。

深夜時間や、祝日に勤務すれば、10%から30%時給がアップ。

毎年、7月と12月には、1ヶ月分のボーナスが2回に分けて支払われます。

有給は、2週間の休暇を年に2回。

 

給料は、労働者全員が加入する公的年金制度インプスI N P S)という機関から、受け取ります。

インプスは、年金だけでなく、失業保険や、社会保険給付も行う機関。

毎月の給料から、年金保険料や退職一時金も積み立てられています。

 

例えば、病気をした場合は、医者の診断書を提出すれば、療養期間中、給料の50%

失業すれば、退職一時金と、最高2年間、失業保険を受け取ることができます。

 

家族を大事にするイタリアでは、産休や育休の手当もあります。

妊娠した場合は、出産2ヶ月前から5ヶ月間、産休給与として、給料の100%が支払われます。

ジェラート店のように、立ち仕事の販売製造業などは、妊婦にとってはリスクのある仕事なので、産婦人科で妊娠証明書を受け取った日から、産休給与期間に入ります。

 

出産育児一時金は、出産前に800€。

出産後に1000€。

児童手当は、所得によって差があり、毎月約50€から170€。


復帰後は、乳児が1歳になるまで、一日最高2時間の授乳時間が与えられます。

その他、子供が6歳になるまでは、180日間の育児給与期間があり、給料の30%が受け取れます。

また、男性にも、一週間の育児給与期間があります。

少子化が深刻化しているイタリアでは、子供を持つ女性が、仕事を続けやすいように、このような様々な援助があります。

 

5.     イタリアと日本の関係

 

『20年もイタリアに住んでいたら、もうすっかりイタリア人でしょう。』

よくそう言われますが、20年を振り返ると、その逆だと思うのです。

イタリアでの社会生活が長くなるほど、日本人としての意識が高まるものです。

 

近年、若年の間での漫画ブームや、小麦アレルギーの増加に伴った日本食ブームが起こっているイタリアでは、日本に非常に詳しい人が増えてきたように思います。

私の周りには、カトリック信仰から一転して、熱心な仏教信者になった人もたくさんいて、日本文化についてのマニアックな質問を受ける事が多くなりました。

 

古代ローマ時代から、食や芸術を含むアートやモーダを、世界に発信してきたイタリア。固有の伝統を守りながらも、あらゆる文化を取り入れ、革新し続けてきた日本。


この両国の間に立ってみると、双方がお互いの魅力に惹かれあい、社会を高め合う関係性を持っていると感じるのです。